地球外少年少女 (アニメ)
アニメ「電脳コイル」の磯光雄氏が監督を務める最新作。全6話。メインアニメーターとして井上俊之氏、キャラクターデザインは吉田健一氏が担当している。
制作陣を見ても文句のつけようがない作品であることはわかるのだが実際に鑑賞してみるとアニメーション作品としては極めて完成度が高く誰もが楽しめるとおもえた。
宇宙とAIがあたりまえのそう遠くない未来、地球軌道上に浮かぶ商業ステーション「あんしん」にて少年少女たちが大きなトラブルに巻き込まれるところから物語は始まる。冒頭から謎のキャラクターが登場するのは愛嬌か。
アニメーションを通じて民間企業(〇-グル、〇ニクロ、〇スラ、〇ペース、◯野家。あくまでもフェイク企業なのだかロゴがあざとい)の設備やロゴが過剰なまでに露出しているため、馴染みがあると思う一方、営利的な側面を意識するといささか苦笑いしたくなるものだ。宇宙、AI、スポンサー、民間、広告、トラッキング、ドローン、プリンタ、、これがあたりまえの世界は果たして正しい姿なのだろうか?と。
伏線を含めて多くの情報を私たちがよく知る記号を使って背景に溶け込ませることによりナレーションによらず背景知識を理解できるようになっているのも◎。コンテンツとしてのチュートリアル/オンボーディングが秀逸なのだ。
アニメーション技術にあまり詳しいほうではないのだが各キャラクターの躍動的な動きは手書きによるものであると思われる。『未来少年コナン』や『ルパン3世』シリーズといったあの頃のアニメを連想させる。リアル系のCGベースのアニメも素晴らしいがこういった作品ではアニメ「らしい」動きのある作風が合っていると感じた。子どもは登場人物達のアニメーションと大枠のストーリーを楽しみ、大人は会話の断片や背景に描かれるさまざまな情報からSF的な考察を深めることができる。要はどの世代でも楽しめる要素があるのだ。半面、背景やポストプロダクション段階ではデジタル技術をふんだんに盛り込んでおりどのように制作したのか気になるところ。メイキング本が出版されることを切に願う!
人物に目を向けるとジュブナイル作品の王道ともいえるくらいみごとに性格の異なる少年少女たちが並ぶ。斜に構えた(厨二病)登矢、登矢リスペクトの博士、穏やかな心葉、トラブルメーカーの美衣奈、優等生の大洋。気になる(イライラする)する役割がいるといったあたりはエンターテイメント作品として外していない。
AIが人間の知能を超えることを技術的特異点(シンギュラリティ)と呼ぶ。2022年時点でこの現象は2045年に到達するといわれている。本作品の年代設定は同じく2045年であり磯氏はそのことを念頭においていたのはいうまでもない。AIが一定の知能を獲得したとき「それ」はヒトをどのように捉えるのか?SF界隈ではよく登場するプロットではあるが最終的に人類との関係性をAIに決定させるくだりはハラハラさせられる。また本作品ではシンギュラリティではなく「知能崩壊」としているがそれは技術的な難解さを避けるためなのだろうか?
人とAIの関わりといえばアメリカのテレビドラマシリーズ『PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット』でも「犯罪を予知する」ために開発されたAIが物語の途中で主人公達(人間)を排除すべき存在と誤認するエピソードがある。主人公たちはいままでの出来事を時系列にAIに提示し表面上の善悪ではなく人生の「コンテクスト」を理解させようとするが…というくだりはAI作品としては秀逸。作中では「有用」なAIが誕生するまでに42のAIを破棄しているという。「地球外…」で登場する商業宇宙ステーション「あんしん」の管理AIは第12世代「トュエルブ」で今回問題を起こすのは過去に廃棄されたはずの第7世代「セブン」。この世界でも「うまくいかなかった」AIは破棄され次の世代を構築するというモデルが採用されている。認識、敵対、破棄、制約。こういったしがらみがAIの物語りにはつきまとうものだ。
SF作品としてはいささか使い古されたテーマと難解なガジェットを散りばめつつもそれらを感じさせない演出、まごうことなきジュブナイル王道サバイバル・冒険活劇であり、万人におすすめできる作品である。昭和からアニメに親しんでいるかたにとっては昔の作品に対するオマージュやセリフがそこかしこに差し込まれているのでニヤニヤしながら酒の肴にすることだろう。
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