劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン (アニメ)

 京都アニメーションによる人気アニメシリーズの完結編。テレビシリーズ、特別編2作品に続き今回の劇場版にて物語は終わりを迎える。

■ あらすじ

 大戦の終結から4年後のライデンシャフトリヒ国の首都ライデン。かつて少年兵であったヴァイオレット・エヴァーガーデンは陸軍時代の上官であるギルベルト・ブーゲンビリアの友人であるクラウディア・ホッジンズの取り計らいによりC.H郵便社にて「自動手記人形」(通称ドール)として代筆業を続けていた。ヴァイオレットはいまや海への感謝祭で歌われる「海への讃歌」への寄稿を推薦されるほど有名になっていた。    代筆業を続けながらもギルベルトのことを想うヴァイオレット。彼女は彼がまだどこかで生きていると信じていた。そんなある日、ユリスという少年から代筆の依頼が舞い込んでくる。ユリスのもとを訪ねるヴァイオレット。ユリスに特別な事情があることがわかり依頼を受けることにするヴァイオレット。そのころC.H郵便社で宛先不明の郵便物の整理をしようとしていたホッジンズとベネディクトはある手紙を見つける。

■ 作品レビュー

 物語はアン・マグノリア(テレビシリーズ第10話に登場)の孫娘であるデイジーがアンの母からアンへ綴った手紙を見つけるところから始まる。手紙はアンの誕生日のたびに届けられていたという。手紙とともに見つけた切り抜きから当時手紙の代筆を請け負ったドールがヴァイオレット・エヴァーガーデンであることを知るデイジー。彼女はこのドールについて調べるようになる。ここからデイジーを水先案内人とし、ヴァイオレットの足跡を辿ることになる。

 導入部は「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」シリーズが初めて、という方にも違和感なく見れるよう第三者的な目線と説明とを設けている点に制作者のやさしさを感じる。作品をより深く楽しみたいのならテレビシリーズをひととおり観ておくとよいだろう。

 シリーズ完結編にふさわしく物語はヴァイオレットを中心に進む。作中では多くが語られることはないため、背景知識や登場人物達の感情は推して測るしかないというのはいままでどおり。受け手の感受性や年齢などによって作品の色味が変わるということだ。頭で理解するよりも心で感じてほしい作品と言ったところだろうか。

 4年という歳月は誰かを忘れるには短く、日常に埋没してしまうほどに長くもある。たとえば学校を卒業したり、転職や引っ越しなどでそれまで近しかった人と疎遠になり、新しい環境に馴染んできた時などにふと意識することもあると思う。疎遠になってみて初めて気づく気持ちがあったとして、いったいどれだけの人が思いを色褪せることなく相手に伝えられるだろうか。

 現状と何らかの折り合いをつけて前に進まなければと思う一方で大切な人の事は忘れられない。気持ちのせめぎ合い。そういった複雑でままならない感情に対して、制作チームの導き出した表現は秀逸だといえる。

 作中では、ヴァイオレットは勿論のことだがホッジンズも印象に残るカットが多い。なにかとヴァイオレットのことを気にかけていた彼も普段は気さくな人物なのだが、ヴァイオレットの前ではたびたび言葉を詰まらせてしまう。出会ったころは両腕か義手であるが故に食事も儘ならなかった彼女と今の彼女を見、彼はなにを思うのか?子を持つ親のような気持ちと言えなくもないがもっと複雑なものもあるように思う。あえて言葉にださないホッジンズ、そういった部分もまた作品を引き立てている。

 本作は作画もさることながら脚本、カット、台詞、背景、音楽と一つ一つが丁寧に吟味され高い次元で構築されている。一体どれだけの時間と労力と議論を重ねればこのような作品に仕上がるのだろうか。背景にも印象に残るものが多い。島の情景、海空の色味、光の加減など。上映時間やカットの都合もあったのだろうが、島の描写などはもう少し長く「間」を撮影しても良いのではないかと思った。

 映画を見終わった後にもう一度だけテレビシリーズの第一話を観てほしい。まるで魔法をかけられたかのような不思議な気持ちになることを保証しよう。

公式サイト: http://violet-evergarden.jp/